日本の建具製作現場では、熟練職人の高齢化や若年層の減少により、人手不足と技術継承の両面で課題が深刻化しています。そこで注目されているのが、外国人技能実習生や特定技能制度を活用した人材確保の仕組みです。
- 採用制度や在留資格が複雑で、導入に不安がある
- 技能実習と特定技能の違いや移行条件がよくわからない
- 外国人にどんな作業を任せられるかを知りたい
この記事では、建具製作分野における技能実習・特定技能制度の活用法と手続き、対象職種や作業内容をわかりやすく解説します。熟練技術の継承と若手人材の安定確保を両立するための実務知識が得られる内容です。
建具製作業界が抱える人材不足と技能継承の課題
建具製作分野では、長年にわたって日本人の熟練技能者が中心となって現場を支えてきました。しかし近年、高齢化が進行する一方で、若手の入職者が減少しており、人材の供給が追いつかない状況にあります。
木製建具の製作は、寸法精度・道具の使い方・仕上げ技術など、多くの作業が経験と感覚に支えられた熟練職人の技術によって支えられています。こうした技術が引き継がれなければ、業界全体の品質低下や施工遅延を招く恐れがあります。
このような状況の中、外国人材の採用は、熟練技能の段階的な伝承と、安定的な労働力の確保という両面の課題に対する現実的な対応策として注目されています。
技能者の高齢化と日本人若年層の離職傾向
現在の建具業界では、以下のような人材構造の変化が起きています。
- 50代以上の技能者が全体の過半数を占めている業者が多数
- 若年層の入職者は10年前と比べて半減している地域も存在
- 作業環境の厳しさや技術習得までの時間の長さが離職要因
- 小規模事業所では後継者不在による廃業も増加傾向
| 課題 | 内容 |
| 高齢化 | 技術はあるが、指導・育成に時間を割けないケースが多い |
| 若年層不足 | 体力・根気を要する作業に敬遠感、他業種へ流出 |
| 技術継承の空白 | 現場でのOJTのみではスキル定着が難しい |
| 労働力確保の困難 | 求人を出しても応募が集まらない現実 |
こうした背景から、一定の条件を満たした外国人材の採用・育成を通じて、持続可能な人材構造を築くことが建具製作業界において重要な課題となっています。
建具製作で認められている職種と作業内容の概要
建具製作は、建設業に分類される職種のひとつであり、外国人材の受け入れにあたっては、制度上で明確に「対象業務」として位置づけられています。特に技能実習制度および特定技能1号においては、対象職種や対応可能な作業内容が制度ごとに定められています。
建具製作に含まれる主な業務内容は以下のとおりです。
- 木製建具(ドア・ふすま・障子など)の加工・組立・仕上げ
- 図面をもとにした木材の寸法測定と切断
- 電動工具や手工具を使用した加工作業
- 表面仕上げや金物取り付けなどの最終工程
- 工場内作業と現場施工の両方に従事する場合あり
これらの作業は、職人の経験と技術に基づいた丁寧な手作業が求められる領域であり、制度により認定された範囲内であれば、外国人材が従事することが可能です。
木製建具の加工・組立・仕上げが中心
外国人が従事できる作業の範囲は、制度ごとに「職種」と「作業内容」が明確に定義されています。
| 制度 | 対応職種 | 主な作業内容 |
| 技能実習制度(1号・2号) | 建具製作職種 | 木材の切断、穴あけ、ほぞ加工、組立、仕上げなど |
| 特定技能1号 | 建設分野(建具製作を含む) | 加工・取付・修理・仕上げの全般(※評価試験合格が前提) |
特に技能実習1号では、限定的な工程(基本作業)に従事することから始まり、2号へ進むことでより高度な作業も可能になります。
また、特定技能1号に移行する場合には、技能評価試験と日本語試験の合格が必要となるため、初期段階から教育体制を整備しておくことが重要です。
建具製作における外国人採用では、制度上、認められた作業の範囲を正しく理解し、過剰な作業を求めないことが適正な運用の第一歩です。
技能実習制度における建具職種の対応範囲と受け入れ要件
技能実習制度では、「建具製作」が明確に対象職種として認定されており、実習1号・2号で一定の工程を担当することが可能です。ただし、受け入れ企業には制度上の要件が複数定められており、正確な理解と準備が求められます。
制度の目的は、日本で培われた技能を開発途上国の人材に移転し、母国の発展に貢献してもらうことです。人手不足を直接的に補う手段ではない点には注意が必要です。
受け入れには、以下のような基本的条件があります。
✓ 建具製作の業務に継続的に従事していること
✓ 技能実習計画を作成し、外国人技能実習機構に申請・認定されること
✓ 技能指導員・生活指導員を社内に配置していること
✓ 監理団体(組合等)と連携し、適正な管理体制を構築していること
これらの条件を満たすことで、技能実習1号から2号へと移行し、段階的に高度な作業にも従事できるようになります。
技能実習1号・2号で対応可能な作業と制度上の注意点
技能実習制度では、1号から2号への移行を前提にした設計がされています。
それぞれの対応内容を以下のように比較できます。
| 区分 | 主な対象者 | 実習期間 | 主な作業範囲 | 要注意事項 |
| 技能実習1号 | 入国直後(初期段階) | 最長1年 | 木材の切断・穴あけ・簡易組立 | 作業は限定的、指導が必須 |
| 技能実習2号 | 評価試験合格後 | 最長2年(累計3年) | 組立・仕上げ・道具使用の応用作業 | 移行には技能評価試験の合格が必要 |
制度の誤用を避けるため、以下の点にも注意が必要です。
- 技能実習=即戦力ではないことを企業が理解しておく
- 実習生に法律上認められていない作業をさせない
- 実習生が不適切な扱いを受けた場合、受け入れ資格の取り消しもあり得る
建具製作業においては、実習生の段階に応じた作業内容を設定し、適正な育成計画を立てることが制度運用の鍵となります。
特定技能1号への移行要件と企業の対応ポイント
技能実習を修了した外国人が特定技能1号に移行することで、より幅広い業務に就くことが可能になります。これは制度上、人手不足分野に即戦力として働ける外国人を受け入れるための在留資格として設けられています。
建具製作分野建具の取り付けなどを行う「建具施工」は、建設分野の一部として特定技能の対象に含まれており、試験に合格すれば最大5年間の在留が可能となります。ただし、企業側も法令に基づいた対応と支援体制の構築が求められます。
特定技能1号の受け入れに必要な企業側の準備には以下があります。
- 対象分野での就労ニーズがあること
- 技能評価試験(建設分野)および日本語試験の合格者であること
- 外国人と直接雇用契約を結ぶこと(派遣不可)
- 登録支援機関に業務の一部委託、または社内で支援体制を構築すること
- 労働条件や福利厚生において日本人と同等以上であること
適切に制度を活用することで、企業は即戦力となる外国人材の安定確保が可能になります。
技能評価試験と日本語基準、登録支援機関の役割
特定技能1号で就労するには、以下の試験合格が必須です。
| 試験種別 | 内容 | 実施機関 | 水準 |
| 技能評価試験 | 建設業における作業内容・工具使用・安全管理など | 建設技能人材機構(JAC)など | 初級レベル以上 |
| 日本語能力判定試験 | 生活・職場で必要な日本語理解 | 日本語基礎テスト(JFT-Basic)等 | N4程度(簡単な会話が可能) |
これらの合格者に対し、企業は以下のような支援を行う必要があります。
- 住居の確保支援・行政手続きの同行・生活オリエンテーション
- 日本語学習や相談対応、苦情受付の仕組みづくり
- 帰国支援や更新時の相談対応なども必要
支援を自社で行うのが難しい場合は、登録支援機関へ委託することができます。どちらを選択する場合も、支援内容は法令で細かく定められており、怠ると違反と見なされるため注意が必要です。
外国人採用の流れと在留資格取得までのステップ
外国人材を建具製作分野で採用する際には、在留資格の取得を含めた一連の手続きを企業側が正しく理解し、段取りよく進めることが重要です。技能実習と特定技能では、申請に必要な書類や対応機関が異なるため、制度ごとに適切な準備が求められます。
採用までの基本的な流れは以下のとおりです。
- 求人募集と候補者の選定(現地面接・オンライン面接)
- 雇用契約の締結(就業条件通知書・労働条件の明示)
- 技能実習または特定技能に応じた実習計画/支援計画の作成
- 監理団体または登録支援機関との連携
- 在留資格認定証明書交付申請の提出(出入国在留管理庁)
- 在留資格認定後、入国・配属・業務開始
この一連の流れのなかで、不備のある書類や不明瞭な契約内容があると審査が長期化するリスクがあるため、各書類の正確な作成と記載が求められます。
募集・面接・契約・在留資格申請の実務プロセス
制度ごとに異なる手続きの違いを、以下の表にまとめます。
| 手続きの流れ | 技能実習制度 | 特定技能1号 |
| 募集・選考 | 技能実習機関・現地送出機関 | 自社募集・支援機関経由・現地面接 |
| 雇用契約 | 技能実習計画に基づき締結 | 特定技能雇用契約を締結(法令に基づく) |
| 関連機関 | 監理団体・外国人技能実習機構(OTIT) | 登録支援機関・建設技能人材機構(JAC) |
| 申請窓口 | 出入国在留管理庁(入管) | 同上(別様式) |
| 支援体制 | 技能・生活・安全指導の社内体制 | 登録支援機関による総合支援(委託可能) |
このように、制度によって関与する機関や準備すべき内容は異なりますが、共通して重要なのは、外国人材が安心して働ける環境を整える企業側の姿勢と体制です。
採用後のトラブルを防ぐためにも、事前準備と情報共有を徹底し、制度に則った透明性の高い採用プロセスを構築することが求められます。
まとめ
建具製作分野における外国人材の活用は、熟練技術の継承と労働力の安定確保の両立を実現する有効な手段です。技能実習制度と特定技能制度の正しい理解と運用により、企業は長期的に優秀な人材を育成できます。制度上の要件や支援体制を整えることで、外国人が安心して働ける環境が生まれ、現場の生産性と品質維持にもつながります。


