外国人を採用する際には、在留資格の確認やハローワークへの届出、社会保険の加入手続きなど、日本人採用とは異なる書類や対応が求められます。これらの必要書類を正確に把握し、適切な手続きを行うことは、トラブルを未然に防ぎ、スムーズな入社と定着につながる重要なステップです。
本記事では、入社前から入社後までに必要な書類と提出方法、注意点を段階ごとに整理し、実務担当者が迷わず対応できるようにポイントを解説します。採用活動を円滑に進めたい企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

外国人採用時の必要書類とは?基本的な役割と確認ポイント
外国人労働者の採用にあたっては、提出や確認が求められる書類が多岐にわたります。これらの書類は、単に形式的なものではなく、就労の合法性や雇用条件の明確化、社会保険制度への適切な加入を支える重要な役割を持っています。
ここでは、必要書類の基本的な性質と、企業が見落としやすいポイントについて解説します。
外国人採用における書類管理の重要性
外国人労働者を雇用する際、必要書類の正確な確認と管理は、採用プロセスの中でも特に重要なポイントです。書類には、在留資格の適法性や労働条件の明示、社会保険の加入要件に関わる情報が含まれており、企業と本人の双方を法的トラブルから守る役割を果たします。
特に外国人の場合、在留資格の種類や在留カードの記載内容によって、従事可能な業務や就労時間に制限があるため、これらの書類を適切に確認せずに雇用を開始してしまうと、不法就労助長罪や行政指導の対象になる可能性もあります。
また、外国人採用の手続きを社内で標準化し、必要書類のチェックリストやフローを整備しておくことで、採用のたびに生じる人的ミスや情報の抜け漏れを防ぐことができます。書類管理は、採用の事務的作業にとどまらず、外国人労働者との信頼構築や職場の安定化にも直結する重要な取り組みです。
書類不備によるリスクとトラブルの代表例
書類管理が不十分なまま採用を進めてしまった場合、さまざまなリスクやトラブルが発生する可能性があります。以下は、現場で起こりやすい代表的な例です。
- 在留資格に合わない業務への従事
→ 不法就労とみなされる - 資格外活動許可がない留学生のフルタイム勤務
→ 労働基準法違反となる可能性 - 在留カードの有効期限切れを見落とし
→ 採用無効や契約解除トラブルに発展 - 保険者資格取得届の未提出
→ 社会保険未加入で後日追徴・指導 - 雇用保険被保険者資格取得届の提出漏れ
→ 労働局からの是正勧告
こうした問題は、提出すべき書類や申請時期、提出先が不明確な状態で採用を進めてしまうことに起因することがほとんどです。したがって、書類に関する情報を体系的に整理し、担当者が迷わず進められる仕組みを整備することが、外国人採用の成功に欠かせません。
入社前に必要な書類一覧と準備の進め方
外国人を採用する際は、内定通知から正式な雇用契約に至るまでの間に必要な書類を適切に準備することが、スムーズな採用実務の第一歩となります。ここでは、入社前に必要な代表的な書類と、それぞれの確認ポイント、準備の流れを整理して解説します。
雇用契約前に確認すべき本人確認書類
採用を進める前にまず確認すべきなのが、外国人本人の在留カードや旅券(パスポート)です。これらは、本人確認と在留資格の適正性をチェックするための基本書類であり、雇用可能な資格を持っているかを判断するうえで非常に重要です。
企業が確認すべき主な項目は以下の通りです。
- 在留カードの在留資格の種類と在留期間
- 就労制限の有無(資格外活動許可の有無)
- 在留カードの有効期限と更新履歴
- パスポートの顔写真ページと入国スタンプ
在留カードの確認は「原本」で行い、本人の同意を得てコピーを社内に保管することは可能です。また、厚生労働省のガイドラインに基づき、在留資格が有効であることを証明できない場合は雇用してはならないとされています。
さらに、留学生などが資格外活動として就労する場合には、「資格外活動許可証明書(資格外活動許可書)」の確認も必要です。週28時間以内という制限を超えていないかを確認し、書面での記録を残しましょう。
就労資格に関する必要書類と提出時の注意点
外国人採用では、在留資格と実際の業務内容が合致しているかどうかの確認が不可欠です。特に「技術・人文知識・国際業務」や「特定技能」など、業種や職種によって必要な資格が異なるため、就労可能な在留資格かどうかの確認書類を提出してもらう必要があります。
主な必要書類
- 在留カード(両面コピー)
- 資格外活動許可証(該当者のみ)
- 履歴書・職務経歴書(業務との関連性を確認)
- 卒業証明書・技能試験合格証明書(特定技能などの場合)
- 雇用契約書(後述)作成に向けた雇用条件案内書
注意点として、在留カードの記載情報だけでは判断できないケースもあるため、職務内容と在留資格の適合性に不安がある場合は、入管庁や行政書士などの専門機関への相談を検討しましょう。
また、入社予定日から逆算して書類準備のスケジュールを組み、提出期限を明確に伝えることが、トラブル防止につながります。海外から呼び寄せる場合は、必要書類の送付や翻訳対応など、余裕を持った準備が必要です。
入社時に企業が提出・保管すべき書類と対応方法
外国人を正式に雇用する際には、労働契約の締結と同時に、企業側が作成・提出すべき書類や保管義務のある書類が複数発生します。これらの書類は、法的な義務を果たすだけでなく、トラブルを防ぐための重要な記録としても機能します。ここでは、入社時に企業が対応すべき必要書類を具体的に整理します。
労働契約締結時に必要な社内書類
外国人であっても、日本人と同様に労働基準法に基づいた雇用契約を締結する必要があります。契約内容を明確に伝え、労働条件を誤解なく提示するために、雇用契約書や労働条件通知書を準備・交付しましょう。
必要な社内書類の例
- 雇用契約書(日本語+母国語での併記推奨)
- 労働条件通知書(賃金・労働時間・勤務地などの明示)
- 就業規則の概要説明書(翻訳または口頭説明)
- 職場ルールや業務マニュアル(多言語対応が望ましい)
外国人労働者が書面を理解できるよう、必要に応じて母国語訳を準備したり、やさしい日本語で説明する配慮が求められます。また、契約書は両者署名の上で1部ずつ保管し、将来的なトラブル回避にも備えましょう。
雇用保険・社会保険関連の届出書類
外国人であっても、雇用形態や労働時間が要件を満たす場合は、雇用保険や社会保険への加入が法律で義務付けられています。企業は、入社にあたって以下の書類を速やかに作成・提出する必要があります。
代表的な提出書類
- 雇用保険被保険者資格取得届(ハローワークへ)
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届(年金事務所へ)
- 住民登録確認・基礎年金番号の確認書類
書類の提出は、原則として入社日から10日以内に行う必要があります。提出が遅れた場合、保険適用が遡及せず、本人が不利益を受ける可能性があるため、事前の準備とスケジュール管理が欠かせません。
また、提出後の控えを社内で保管する体制を整えておくことも重要です。今後の在留資格更新時など、過去の雇用実績を証明する書類として使用される場合があります。

入社後に必要な書類・手続きと届出の流れ
入社手続きが完了した後も、企業として行うべき届出や管理業務は多く存在します。特に外国人労働者の場合は、在留資格に関する手続きやハローワークへの報告義務など、日本人採用にはない対応が求められます。ここでは、入社後に必要な書類と実務上のポイントを解説します。
ハローワークへの届出と提出期限の注意点
外国人を雇用した場合、企業は「外国人雇用状況の届出」をハローワークへ提出する義務があります。この届出は、雇用保険の被保険者であるかどうかにかかわらず、全ての外国人労働者が対象です。
提出すべき書類と内容
- 外国人雇用状況の届出(雇入・離職ともに提出)
- 氏名、在留資格、在留期間、在留カード番号など
- 雇入日の翌月末までに提出(電子申請も可能)
この届出を怠ると、ハローワークからの是正指導や、悪質な場合は企業名の公表といった行政処分の対象になる可能性もあります。正確な情報を記載するためにも、在留カードのコピーを確認資料として保管しておきましょう。
また、離職時にも同様に届出が必要となるため、入社後の人事管理体制として、入退社時の手続きをルール化し、文書で明確化しておくことが望まれます。
在留カード更新・資格変更時の対応
外国人労働者の多くは、一定期間ごとに在留カードの更新または在留資格の変更が必要です。企業としては、更新期限の把握と、必要に応じたサポート体制の構築が求められます。
対応時の主なポイント
- 在留期限が切れる前に、本人へ更新申請を促す
- 必要に応じて、就業内容に合致する資格への変更を検討
- 資格変更を行う場合、新たな在留資格認定証明書の取得が必要
- 雇用内容が変更された際は、企業が申請に必要な書類作成を支援
更新・変更に必要な書類には、以下のようなものがあります。
- 在留資格変更許可申請書または更新申請書
- 雇用契約書、会社案内、職務内容の説明資料
- 勤務実績を証明する書類(出勤表や給与明細など)
在留資格の変更や更新は、本人だけでなく企業にも関係する重要な事項です。在留期限の3か月前には社内でチェックする体制を整え、リマインドと書類作成の準備を並行して進めることが理想です。
書類作成・提出の実務に役立つチェックリストと流れ
外国人採用に関する手続きは、多くの書類と期限を伴います。採用担当者が迷わず対応できるよう、必要な書類を時系列で整理し、実務に即したチェックリストとフローを作成しておくことが非常に有効です。ここでは、ミスを防ぐための管理体制と、チェックすべきポイントを具体的に解説します。
書類確認・管理体制の整備と社内ルールのポイント
外国人労働者を受け入れる企業には、継続的かつ確実な書類管理体制の構築が求められます。特に複数の外国人社員を雇用する場合は、手続きや提出時期のずれが生じやすいため、社内ルールとして明文化し、関係部署で情報を共有することが重要です。
管理体制整備のポイント
- 採用フェーズごとの必要書類一覧を作成し、定期的に見直す
- 在留資格の期限を管理するシステムまたは台帳を整備
- 入社から届出・保険手続きまでのタイムラインを可視化
- 本人提出書類と企業作成書類の区別を明確にする
- 書類提出・確認の責任者を部署内で明示する
また、書類が揃っているかのチェックだけでなく、情報の正確性・最新性の確認も重要です。特に在留カードの内容変更や更新がある場合は、最新情報に基づいて管理台帳を随時更新する仕組みを取り入れましょう。
ミスを防ぐフローチャートと実務担当者向け管理法
以下は、採用から入社後までの手続きを時系列に沿って整理したフローチャートのイメージです。この流れを可視化し、チェックリストと併用することで、業務の抜け漏れを防ぐことができます。
採用〜入社時
- 在留カード・パスポートの確認
- 就労資格と業務内容の適合性チェック
- 雇用契約書・労働条件通知書の作成・交付
- 社会保険・雇用保険関連書類の作成と提出
- ハローワーク「外国人雇用状況届出」の準備
入社後
- 届出期限管理(入社日から10日・翌月末など)
- 資格更新・変更のスケジュール共有
- 書類の電子管理・コピー保管のルール化
- 離職時の届出・保険喪失処理の準備
このフローに沿ってチェックリストを運用することで、人事・総務・現場担当が共通認識のもとで動ける体制が整います。また、社内マニュアルとして文書化することで、引き継ぎや担当者変更にも柔軟に対応できます。
書類管理は「一度やれば終わり」ではなく、継続的に見直し・改善していくことが、組織としての信頼性と法令遵守力を高める鍵となります。
まとめ
外国人採用では、在留カードや雇用契約書、資格外活動許可証、保険被保険者資格取得届など、入社前後に必要な書類と手続きが多数存在します。これらの確認や提出が適切に行われないと、在留資格違反や行政処分のリスクが高まります。
雇用前から入社後までの書類の流れを把握し、チェックリストや社内体制を整備することが、スムーズな採用と労務管理の鍵となります。企業は法的義務を果たすだけでなく、外国人労働者との信頼関係を築くためにも、書類管理の重要性を理解し、実務に活かす必要があります。
